天国の話 第二篇〜ひと月の残り香〜
お久しぶりです。ゆがみちゃんです。
今回は人生初のおっパブから約1ヶ月後のお話です。
天国の門扉を叩いてから1ヶ月。
またしても僕らはその入口に立っていた。
契機はYさんの1通のメールだった。
「各位、おつかれさまです。
以前の飲み会で盛り上がったメンバーで
〇〇(天国の名称)へ行きましょう。
当日の段取りは……(以下略)」
……マジか
1ヶ月もしないうちにまた決まってしまった…。
メンバーこそ違うものの早速願いが叶ってしまった。最高やなこの職場は。
「いらっしゃいませー!」
エレベーターが開くとあの日のようにピンク色の喧騒が僕らを包む。その感覚にもはや懐かしさすら覚えた。
今回は1番仲のいいM先輩がメンバーにいた。
部署は違えどすれ違うたびに下ネタを交わす仲である。M先輩が言う。
「ゆがみちゃん、たまらんなあ」
ゆがみちゃんは意気揚々と一言。
「何回来ても最高ですわ!」
くだらない会話をし、ドリンクを注文すると、まもなくすっかり世界共通言語となった「挨拶」の時間がやってきた。
「挨拶失礼しまーす♡」
この国の挨拶はぱふぱふなのだ。1度訪れた時にこの言語は習得した。
怯むことなく何人もの柔らかさを堪能する。これは挨拶。なにもやましいことなどない。
挨拶を嗜んでいるとボーイがドリンクを運んでくれた。
――やぁマスター、ここより美味しいジントニックを僕は飲んだことがないよ。
そう言いたい気持ちでいっぱいである。
M先輩はさっき来たピンク髪のチャンネー、Uちゃんがお気に入りらしい。
しきりに「かわいい」を連呼している。
先程からちらほらと以前見かけた女の子がいるものの、名前を思い出せない。たしかに挨拶をして名前を名乗りあった筈なのだが。
この国の「挨拶」を以てしても名前を覚えられないのに、たかだかちょっと上品な紙切れを交わしただけで名前と顔覚えれるわけがないのである。ファッキンビジネス。何回も名乗れ。
ひと通りの女の子と「挨拶」し終えたのか女の子がやって来るのが止んだ。M先輩に声をかける。
「M先輩どうでした?やっぱツーショはあのピンクの子ですか?」
「せやな、あの子ええわあ……」
さすが先輩ははやくもお気に入りを見つけたらしい。
一方ゆがみちゃんはというと、以前ツーショットした子が一人もおらずどうしようか頭を悩ませていた。
ここは新しい子とイチャイチャするのもありかなあ? などと考えていた時、後ろから「挨拶いいですかー?」と声をかけられた。
振り向くとそこに立っていたのはNCちゃんだった。
思わず「あっ」と声が出てしまうゆがみちゃん。小林製薬の社員ではない。
「NCちゃん」
すると営業スマイルをつくっていたNCちゃんも驚いたような顔に変わり
「あれ、こないだ入社記念にって言ってた……」
「そうですー!覚えててくれたんですねー!」
「もちろんやんー!」
認知である。1回行っただけなのに認知である。これが俗にいう神対応というやつなのであろう。
もしかするとゆがみちゃんのことがタイプだったのかもしれない。もしくは珍しくあまりおっぱいにがっつかないドM客として覚えられていたのかもしれない。
どちらにせよこの事実は「幸せ」を形作るのである。
「ゆがみちゃんが言ってた好きな子ってこの子?」
このくだりを見ていたM先輩が声をかける。
「そうですそうです!」
ゆがみちゃんが興奮まじりに返事をする。
するとNCちゃんがゆがみちゃんにバックハグをし
「NCとゆがみちゃんはラブラブやもんなあ♡」
と一言。
調子に乗った生駒ゆがみ、NCちゃんの方を振り向いて「なー♡」と一言。
そしてキスをしようとする。意外なことにNCちゃんはすんなり受け入れてくれた。まだお金払ってないのに……!!やっぱりゆがみちゃんのことタイプなんじゃないのか……?
もしくは顔だけじゃなく前の約束(「また遊ぼうね」)までしっかり覚えていてくれたというのだろうか。
M先輩は「えっ、ずるい!NCちゃん俺にも」
NCちゃんは「だめー♡NCはゆがみちゃんがいいもん♡」
俺がNCちゃんTO(トップ・オタク)だ……
認知のその上へ駆け上がれ生駒ゆがみ。それが営業であろうとも。
「今日もNCといっぱい遊んでくれるんー?」
「もちろんやん!遊ぼ!」
「やったあ♡もうすぐフルーツやから待ってるね〜♡」
そういうとNCちゃんは手のひらをふりふりとしながら店の奥へ消えていった。
もうメモリがパンパンになりつつある。NCちゃんのかわいさにより様々なソフトが大量にインストールされてしまった。まるでウィルスである。病気なのは間違いなくゆがみちゃんの方なのだが。
M先輩が話しかけてくる。
「なんなんゆがみちゃんめっちゃ好かれてるやん?今日2回目やろ?」
「そうなんですけどねー、覚えててくれたみたいです」
「NCちゃんになんかしたん??」
「いや、色々されたのは僕の方……」
そんな話をしているうちに男性の声でアナウンスが店内に響く。
彼は魅惑の果実タイムの始まりを告げた。