天国の話第2篇最終話〜最高級の擬似セックス〜
――シャツを直す暇はなかった。
厳密に言うならば、あまりの急展開にそれを忘れていた。NCちゃんが3分をまたゆがみちゃんと過ごしてくれることになった。
ゆがみちゃんの脳はピンク色の微弱な電流でピリピリと痺れたままである。
考えるメモリが回復しないまま椅子に座らされると、いきなりキスされ、ハグされた。甘く、艶やかな匂いがする。
そこからは一回目の状況に持ち込まれるまで一瞬だった。既にシャツが出てはだけていたから。
「最後いっぱい楽しもうね♡」
NCちゃんの艶を帯びた声が耳に響く。
「うんっ、うんっ」
ゆがみちゃんは乳首を弄られ、返事をすることがやっとである。マジックミラー号で童貞を奪われる間際の男がよくこんな反応をしていた気がする。
情けない話である。生駒ゆがみは童貞なのだ。
どれほど外見を取り繕ってみても、どれほど風俗に通ってみても、、、
――童貞なのだ。
そのとき、NCちゃんが猛烈な攻めの手を緩めてゆがみちゃんの体とは別の方向に手を伸ばした。
「どうしたん?」
ゆがみちゃんが声をかけるとNCちゃんは笑いながら
「タイマー押すの忘れてたwww」
……こういうとこやぞ
ゆがみちゃんは思った。
NCちゃんのこういうところが男殺しなのだと思う。ストレートに言葉で容姿を褒めたりすることなく、行動で「あれ、この子俺のこと好きなんじゃね」と思わせる高等テクニックである。
今回であれば、契約通りツーショットタイムを「3分」で終わらせようと思えば終わらせることができる権利をNCちゃん側から放棄し、ゆがみちゃんとイチャイチャしているのである。
気に入らない客であればきっかり3分を計るに違いない。それをしないということはやはり彼女はゆがみちゃんのことが……
前々から繰り返しているが、男はバカで愚かな生き物なのである。こんな些細なことさえ自分にとって都合よく解釈するのである。そう。先程のようにNCちゃんはわざとタイマーを押し忘れたのではないか?などという妄想が頭の中で広がってゆくのだ。まるでパンデミックのように。
これを口に出せばクソ客に成り下がるのであろう……。そんなことはわかっている。だから何も言わずNCちゃんに「おっちょこちょいやなーww」と言わんばかりに一緒に笑い合うに留めた。
さて、NCちゃんの可憐な指先がタイマーのスタートボタンを押し、契約された時間が始まった。
計画的なのか否かわからないが「契約」が始まってからのNCちゃんの攻め方は尋常ではなかった。耳に噛みつき、首に噛みつき、、
NCちゃんの歯が肌に刺さる。じんわりとした鈍い快楽が広がってゆく。ゆがみちゃんは息たえだえ彼女に身を委ねていた。
NCちゃんも心做(な)しか息が上がってきているように思えた。猛烈な攻めで疲れたのか、それとも……。ゆがみちゃんの首筋からぱっと口を離す。
――もう3分経過したのだろうか?いやまさかさすがにはやすぎるだろう??
一抹のそんな気持ちはNCちゃんの舌によって拭い去られた。
NCちゃんはゆがみちゃんのシャツをたくし上げ、さっきまで指で弄り回していた乳首を……
そう、ペロペロンチーノである。
こんなことまで……ショーパブ、なんと恐ろしい……
ぬらりとした舌先がグツグツに沸騰したかのように熱い快楽をゆがみちゃんの身体に注ぎ込む。
ゆがみちゃんの脳みそはアルデンテに茹で上がった。モチモチとした食感がウリになりそうである。ウーン、ユガミシュラン3つ星!
ただ、3つ星を与えたとてNCちゃんの猛攻は止むことは無かった。ゆがみちゃんの脳みそと乳首をアルデンテに仕上げたNCちゃんはそのまま下にスライドして行き、スラックスの上からゆがみちゃんのゆがみちゃんを咥え、そのまま「ふぅー」と熱い息を吹きかける。
ゆがみちゃんのゆがみちゃんがどの海外セレブが使うより高級で上質なスチームを浴びた。身も心も健康になるに違いない。血が湧き、肉が踊り、10歳は若返るに違いない。ガン細胞だって某京大教授の手を借りずともこのスチームによって引っ込むかもしれない。
……ピピピ
ここでタイマーが契約の終了を告げた。
NCちゃんは手を伸ばし、タイマーを止めた。
少しと3分。実に濃厚な時間だった。手を引かれ席に戻る流れに入ろうと茹で上がった脳みその冷却を試みる。麺はこうやって水で締めると美味しくなるらしいな。そんなことを思い出しながら。
しかし、NCちゃんがとったのは意外な行動であった。
着ていたTシャツをたくし上げ、ゆがみちゃんに見せてくれたのである。
他の女の子は触らせることはあっても見せることは決してなかった。そういうものだと思っていたので要求することもしなかった。
しかし、NCちゃんは……ゆがみちゃんが喜ぶと思って…………??
おっぱいに話を戻そう。
CからDくらいの、美乳と称することしかできないおっぱいがそこにはあった。たまらんである。実に、たまらんである。
「めっちゃ綺麗…」
ゆがみちゃんは素の感想を漏らす。
「そう?ありがと♡」
ゆがみちゃんはおっぱいに触れ、キスをした。NCちゃんも自然とそれを受け入れてくれているようだった。
半沢直樹が作中で言っていた「血の通ったビジネス」という言葉がある。もしかすると、これがそのひとつの形なのかもしれない。
確かに、ここには他に形容し難い「血」のようなものが通っていた。
「友情」でもない。「愛」でもない。
なにか「血」のようなものが。
さて、ここから手を引かれ、席に戻って彼女との物語は幕を閉じる……はずであった。
NCちゃんは唇を離すとそのままゆがみちゃんの耳元へ唇をあて、囁いた。
「私でいっぱいオナニーしてね♡」
――ゆがみちゃんに電撃が走る。
今日のことを思い出して致せと言うのだ。い
や、致しても良いという正式な許可が下りたのだ。
……もしかするとそのために最後におっぱいを触らせたし見せてくれたのかもしれない。
まさに最高級の擬似セックスである。
あまりに突然の言葉にゆがみちゃんは言葉失った。しかしせっかくここまで濃厚な言葉をかけてくれたのだから何かレスポンスをしなければならない……
それもただ「はい」だの「うん」だのそういう言葉はNCちゃんの言葉を踏みにじるような淡白さを持つためNGである。
そうして様々な考えを巡らせ、偏差値がマイナスの茹でたて脳みそが出した言葉がこれである。
「えっと……するし……あの……先月から……ずっとしてる……」
茹で上がった脳みそはあろうことか考えうる限りで一番気持ち悪く、ナンセンスな回答を提出した。
今振り返れば「する……いっぱいする……///」くらいに留めておく方がかわいかったかもしれないし、NCちゃんもそういう返答を求めていた気がする。なにもゆがみちゃんのシコ事情を求めていたわけではない。
しかしNCちゃんは少し驚いたも顔をしたのの、笑顔のまま「えwwwそうなんwwwすごいなあwww」と返してくれた。これがプロである。
さて、ここから手を引かれ、席に戻って彼女との「3分」は幕を閉じる。
別れ際NCちゃんは「本当ありがとう!」と一言。そして熱烈なハグとキスをくれた。
「こちらこそー!」
と笑顔で返すとNCちゃんはゆがみちゃんに言う。
「もう帰っちゃうんやんな?」
ゆがみちゃんは辺りを見回し
「そうやなー、M先輩が帰ってきたらお店出るかな」
「そっかー、NC、いまからステージやから見て欲しかったなあ」
「ごめんなー、俺も見たかったわぁ」
――すこし後悔の残る別れ方になってしまったなあと思ったが、M先輩がUちゃんと遊びに出かけ、なかなか帰ってこなかったのでNCちゃんのステージを最後まで見ることが出来た。
エロい目的で語られることが多いので忘れがちであるが、ダンスはかなりの実力だった。日々相当な練習をしているのだと素人ながらに思った。
あとステージ上のNCちゃんと数回目が合ったのであれは絶対ゆがみちゃんの方見てた。間違いない。
ショーが終わりM先輩がニヤニヤしながら帰ってくる。そこでYさんが「おそいぞwww相当お楽しみやったな?www」と声をかけ、その後店から出る流れになった。
こうして後悔残ることなくゆがみちゃんは店をあとにした。
またそのうち来れたらいいなあ。
ゆがみちゃんはシコりながら思った。
完